JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第271号 5月号 2026年5月29日発行 ―目 次―  トピックス 1. アジア地域CBR/CBID Center of Excellence設立戦略ワークショップ参加報告  公益財団法人アジア保健研修所(AHI)事務局長・ラーニング事業部門主任/JANNET企画委員長  清水 香子 〜第31回「リハ協カフェ」登壇報告〜 2. 聴覚障害者による音楽の伝え方と楽しみ方―カナダ・イギリスの視察を踏まえた報告  九州大学大学院芸術工学府博士後期課程  萩原 昌子 3. デジタル デバイド“Digital Divide”って知ってますか?(B 発展期)ーICTは「自己責任」?「自己選択」?ー  日本障害者協議会(JD) 政策委員  磯野 博 インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 イベント情報 1.第32回「リハ協カフェ」 2026年6月5日(金) トピックス 1. アジア地域CBR/CBID Center of Excellence設立戦略ワークショップ参加報告 公益財団法人アジア保健研修所(AHI)事務局長・ラーニング事業部門主任/JANNET企画委員長  清水 香子 2026年4月7日から9日、タイ・バンコクにて、アジア地域CBR/CBID Center of Excellence(CoE:中核的研究拠点)設立戦略ワークショップが開催されました。主催はリリアン財団、共催はアジア太平洋障害開発センター(APCD)でした。アジア15か国から33名の、当事者団体のリーダーやNGOワーカーが集まり、各地に散在するCBR/CBIDに関する知と経験を集約し、より大きな社会変革につなげるための新たなネットワーク構築について議論をしました。日本からは上野悦子氏(元JANNET事務局長)と私が参加しました。   事前にコアグループ(既存の障害分野のネットワークのキーパーソンの方々)がアジアのCBR/CBID実施団体に聞き取りを行い、抽出された課題をもとにCoEの4つの活動領域が起案されました。本ワークショップでは、コンセプトの共有、活動領域の具体化、ガバナンスと持続性の方向性の整理を目的に議論が行われました。コアグループの原案をもとに、参加者の活動事例や経験共有を随所にいれこみ、SWOT分析やロールプレイ、ワールドカフェなど参加型のワークを用いて進められました。   1日目は基本コンセプトを理解し、地域別に課題を分析し優先順位を決めました。 2日目は、CoEの特徴・機能として、参加型であること、既存の団体やネットワークと重複した活動はせずそれらと協働関係を作ること、自国中心ではなくアジア全体の恩恵をめざして活動すること、多言語の参加を可能にすること、を確認しました。また活動領域(@学びと知識の共有 A実践者の能力強化 B政策提言 C調査研究)をそれぞれに具体化しました。 3日目は、それらをめざし行うCoEとしてふさわしい組織運営やガバナンスについて小グループに分かれて意見を出し合いました。なおこの際、上野氏はJANNETの組織体制を発表しました。最後に、今後1年間パイロット運営委員会(多様な立場・関係者から1〜2名ずつ計7名程度)を設置し、ガバナンスについて継続討議することが決まりました。委員は自薦、投票によって選出します。   対面で議論を重ね、交流した3日間は、参加者一人ひとりのCoEへのオーナーシップを高め、ともに新たな基盤を築こうとする仲間づくりの場ともなりました。一方、多忙なメンバーが多いなかでの事務局体制の確保や、財政的持続性の確立は、引き続き検討が必要です。   実践の蓄積をいかに可視化し、エビデンスとして政策につなげていくかという問いは、日本にも共通します。JANNETとしても、本CoEの動きをフォローし、日本のCBR/CBID実践者とアジア各地の経験を結び、相互に学び合う機会を探っていきたいと考えています。       〜第31回「リハ協カフェ」登壇報告〜 2.聴覚障害者による音楽の伝え方と楽しみ方―カナダ・イギリスの視察を踏まえた報告 九州大学大学院芸術工学府博士後期課程  萩原 昌子 ※去る2026年4月3日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『第31回「リハ協カフェ」』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。 本報告では、ろう者である筆者が自身の音楽体験と、イギリスおよびカナダでの調査を通して、聴覚障害者と音楽の関わり方についてご紹介します。   筆者はクラシック音楽を好み、コンサートホールにも足を運びます。しかし、旋律や和声を音として細かく聴き分けることは難しく、音楽は主に視覚や身体を通して受け取っています。たとえば、指揮者や演奏者の動き、呼吸のタイミング、弓の軌跡、舞台上の光や空気の振動など、さまざまな要素が重なり合って音楽として感じられます。 一方で、現在の鑑賞環境には課題もあります。特にトークや解説に手話通訳や、字幕などの情報保障がない場合、内容がわからず、周囲と同じ体験を共有できないと感じることがあります。また、振動機器などの支援も広がりつつありますが、必ずしも当事者の実感に合っているとは言えない場面も見受けられます。   こうした背景から、2024年に文化庁の海外研修制度を活用し、イギリスとカナダで約40日間の調査を行いました。テーマは、聴覚障害者が「支援される側」ではなく、「主体」として関わる音楽のあり方です。 イギリスでは、既存の音楽文化へのアクセスを広げる取り組みが進んでいました。聴覚障害のある音楽家が専門教育を受け、演奏家や教育者として活躍しています。また教育現場では、視覚や身体を使った指導が行われ、「正しく演奏すること」よりも「音楽を好きになること」が大切にされていました。手話通訳や字幕などの情報保障も整いつつあり、継続的に音楽と関われる環境がつくられています。 一方、カナダでは、音に依存しない新しい音楽のあり方が実践を調査しました。ろう者が主体となって運営する芸術教育の場では、「サイン・ミュージック」という音楽表現が用いられています。これは手話の言語的特性としての動きやリズムを通して音楽を構成するものです。音がなくても、身体や空間の変化によって音楽的な流れや感情が共有されます。また、ろう者独自の視覚を通じた文化や、さまざまな社会的な抑圧にかかるコンテキストから生み出された表現で、国籍や言語に関わらず共通認識を持つことができます。   このように、聴覚障害者と音楽との関わりには二つの方向性が見えてきます。一つは既存の音楽へのアクセスを広げること、もう一つは音に依存しない新しい音楽を生み出すことです。そしていずれも、当事者が主体となって関わることが重要です。 一方、日本では、音楽教育へのアクセスやロールモデルの不足が課題となっています。多くの聴覚障害者が「音楽は自分には関係ない」と感じており、その背景には、音楽を「聴こえるもの」として捉える社会的な前提があると考えられます。 音楽は本来、聴覚だけに限られるものではありません。さまざまな感覚を通して経験できるものです。聴覚に依らない音楽のあり方を認めることは、アクセシビリティの向上だけでなく、音楽そのものの可能性を広げることにもつながります。今後も、ろう者主体の実践を通して、多様な感性が尊重される文化芸術の環境づくりを目指し模索を続けていきたいと考えています。     3.デジタル デバイド“Digital Divide”って知ってますか?(B 発展期)ーICTは「自己責任」?「自己選択」?ー 日本障害者協議会(JD) 政策委員  磯野 博   1 はじめに 前号では、「Windows革命」から得られた“New DEAL”によって「これならできる!!!」と人生の新たな道が拓けた思いを強くしたことをお話ししました。しかし、そのような私に新たな苦難が訪れたのです。それは「自己責任」という壁です。   2  ICTは「自己責任」? 現場に一台しかないWindows95デスクトップパソコンにインストールした私の“New DEAL”、音声ワープロソフトと画面拡大ソフト、インターネット支援ソフトと墨字読上ソフトは快適でした。しかしパソコンにはバグが付きもの、使っているうちに不具合が出てきました。これら視覚障害者支援ソフトはパソコンにとっては標準整備されていない邪魔者、このような不具合は徐々に大きくなっていったのです。 仕方なく、まずは視覚障害者支援ソフトを開発した会社に相談しました。すると「それはパソコン本体、つまりハード面の問題です!」とキッパリいわれました。そこでパソコン本体のメンテナンス会社に相談したところ、「そんなもんをインストールすることなんか想定していない、それはソフト面の問題です!」と断じられたのです。どうして良いか分からなくなり、両方の会社に双方の主張を説明したところ、「そのパソコンにそのソフトをインストールしたのはあなたでしょう!ご自身で対処して下さい…」といわれてしまいました。この回答に目の前が真暗になった私は、ICTは「自己責任」であることを思い知らされたのです。とはいえ、この回答は、「あなたの障害はあなたの問題!」と障害そのものが「自己責任」であるといわれているようであることが何より悲しかったのです…。   3 発展するICT このような私の思いとは別にICTは加速度的に発展していきました。Windows 98にバージョンアップされると、Windowsの機能そのものを読み上げるソフトも複数開発され、視覚障害者もノートパソコンを持ち歩く時代になっていました。そして、Microsoft社自身が、強力なスクリプティング機能によってWindowsの機能ほぼすべてを読み上げる「世界最強のスクリーンリーダー」を発表したのです。その名はJAWS、あの人食いサメと同じですが、これは“job accessibility with speaking”の略だというのですから洒落ていますね?しかし、このソフトは20万円と極めて高額であることに加え、設定がデリケートであり、初心者には少々ハードルの高いものでした。 パソコンのみではありません。当時はまだガラ系ですが、携帯電話も音声対応のものを各社が開発しており、視覚障碍者のカバンにはノートパソコン、ポケットには携帯電話という時代が訪れたのです。 Windowsも続々とバージョンアップされ、2000、Millennium、XPから自分が使うソフトと相性の良いものを選ぶようになってきました。ノートパソコン本体も同じです。NEC、Fujitsu、IBMなど、それぞれ使い易いインターフェイスから選ぶようになってきたのです。また、これらを選ぶ情報も多くなり、メーリングリストやフェイスブックなど、視覚障害の当事者が情報を共有する手段も多彩になってきました。ICTは「自己責任」であることには変わりありませんが、それに対応する「自己選択」の幅も広がっていたのです。   (以下、次号)      ******************************************************************************** インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報  (関連サイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html)  署名国・地域数164/ 締約国・地域数 193 (2026年5月末現在) https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en イベント情報 1.第32回「リハ協カフェ」 2026年6月5日(金) 日本障害者リハビリテーション協会の国際委員会では、国際協力分野において障害分野の課題に取り組んでいくため、情報発信を継続し、関係者への情報提供を行うべく、2020年8月よりリモートによる報告会「リハ協カフェ」を隔月で開催してまいりました。今回は第32回目の開催です。 第32回は、若嶋 郁恵氏(フリーランサー)より「ニュージーランド在住日本人コミュニティーの今と未来 ―シニア支援と多世代交流の現場から―」について、また桑名 敦子氏(日本語教師)より「私と自立生活運動」についてご報告いただきます。 関係者以外にも広くご参加を募ります。皆様のご参加をお待ちしております。  ◆日時:2026年6月5日(金)13:30〜15:15  ◆会場:リモート開催(Zoom) ※要約筆記が入ります。  ◆主催:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会  ◆共催:障害分野NGO連絡会(JANNET)  ◆参加費:無料  ◆定員:100名   プログラム(敬称略)*プログラムの内容に変更がある場合がございます。ご了承ください。 13:30-13:35 開会挨拶  吉田 正則(日本障害者リハビリテーション協会 常務理事) 13:35-14:15 報告1  「ニュージーランド在住日本人コミュニティーの今と未来―シニア支援と多世代交流の現場から―」  発表者:若嶋 郁恵 氏(フリーランサー) 14:15-14:25 質疑応答 14:25-15:05 報告2  「私と自立生活運動」  発表者:桑名 敦子 氏(日本語教師) 15:05-15:15 質疑応答 15:15    閉会 【発表者プロフィール】 ・若嶋 郁恵 氏(フリーランサー) 1978年札幌生まれ。ニュージーランド在住。フリーランサー。 幼少期より家族の心身の不調や環境の変化を経験する中で、「安心・安全で健康的なつながりとは何か」に関心を持つ。 高校では家政科、短期大学では生活学科にて、衣食住・家族・社会・人の営みについて学ぶ。 現在、Age Concern Auckland ソーシャルコネクションチームにて、日本人コミュニティコーディネーターとして活動。 日本語話者シニアを中心とした交流の場づくりやデジタル支援、多世代コミュニティの形成に取り組むほか、訪問ボランティアのマッチングを推進。 また、不登校経験のある10代のリスタート支援に18年携わり、子ども心理カウンセラー・家族療法カウンセラーの視点を活かし、世代や背景を越えた支援活動を行っている。 ・桑名 敦子 氏(日本語教師) 福島県郡山市出身で、現在はハワイ在住。 出産時の事故で脊椎損傷を負い、幼少期から車椅子で生活。 ミスタードーナツ障害者リーダー米国留学派遣第1期生として、カリフォルニア州バークレーの自立生活センターで研修を受け、ジュディー・ヒューマンやエド・ロバーツから自立生活運動を学ぶ。 その後、自立生活運動のリーダーであるマイケル・ウィンターと結婚し渡米。日本から養子を迎え、母親となる。 現在はオンラインで日本語教師として活動する一方、ハワイ在住で日本語が不自由な日本人を支援するNPOでボランティア活動を行っている。 趣味はスキューバダイビングと旅行。 【申込方法】 以下のサイト、またはFAXにてお申し込みください。  https://www.jsrpd.jp/cafe32/ 申込受付:2026年6月4日(木)15:00まで ※情報保障が必要な方は、5月28日(木)までにお申し込みください。 定員になり次第、締め切りとなりますので、ご了承ください。 お名前、ご所属、ご住所を明記の上、手話通訳、要約筆記、テキストデータなど必要があれば申し込み時にお知らせください。 参加登録された方へZoomのURLをお送りいたします。   【お申し込み、お問い合わせ先】  《公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 国際課》担当:村上・仁尾(にお)  〒162-0052東京都新宿区戸山1丁目22番1号  TEL: 03-5273-0601   FAX: 03-5273-1523  Eメール:kokusai@dinf.ne.jp 編集後記 (伊藤 丈人/JANNET広報・啓発委員) JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会   〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内  【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630  URL: https://jannet-hp.normanet.ne.jp/ 以上